賃貸管理の仕事をしていると、入居者と連絡が取れないことがあります。
- 家賃の滞納
- 近隣クレームなどの連絡
- 一人暮らしの高齢者
特に一人暮らしの高齢者は、連絡が取れないと最悪の事態を懸念して不安になります。
筆者はアパートの安否確認をおこなった際、室内で入居者が亡くなっていたという体験をしました。(実話)
その私の体験を時系列でまとめました。
目次(もくじ)
近隣からの苦情が入る(クレーム)
アパートの部屋に入居していたのは、60代の男性です。
体が弱く預貯金もないため、生活保護を受けています。
きっかけは、近隣住民からの苦情でした。
会社宛てに「アパートの部屋のドアから異臭がする。玄関前にハエやウジが発生している。」という連絡が入りました。
まずは現地の確認をするために、筆者がアパートの部屋を訪問することになりました。
ここまでの記述で、あなたは入居者の「死」を感じ取ったかもしれません。
しかし、この時の私はまだそこまでは考えていませんでした。
その理由は、この入居者の男性は以前から清潔感のないところがあり、これまでも部屋から異臭を放つことがあったからです。(以前は部屋の内外にゴキブリが発生していたことがありました。)
まずはアパートの部屋を訪問
会社へ連絡があった翌日の午前中、アパートの部屋を訪問しました。
玄関の前に立つと、確かに異臭がします。廊下の床にはウジも少し見られます。
私は、部屋のチャイムを鳴らしました。何度か鳴らしましたは応答がありません。
ドアを何度かノックしましたが、反応はありません。
その日は会社に報告して終わりました。
隣室を訪問した保証会社から連絡が入る
その4日後、午前中に会社へ連絡が入りました。
このアパートの(別件で)別の部屋に来ていた、家賃保証会社からです。
「アパートの○〇号室から腐敗したような異臭がする」
この電話を受けて、私の会社のスタッフがこの入居者の部屋の家賃保証会社に確認しました。
すると、「家賃滞納の案件ではないので保証会社は動かない」との返答だったということです。
早急に自社で入居者の「安否確認」をすることになりました。
会社から指示があり、現場を訪問するのは私です。
警察の立会いのもと、ドアを開けて室内の確認をする必要が出てきました。
会社に部屋の鍵を取りに行く
そのとき外出中だった私は、室内の確認をするにあたり部屋の鍵を会社に取りにいきました。
また、この入居者は生活保護を受けていたため、会社のスタッフは役所の担当者へも連絡を入れていたようです。
警察(交番)に相談する
部屋の鍵を受け取ると、すぐに電車でアパートの最寄り駅まで向かいます。
駅に着くとすぐに駅前の交番へ。このとき時間は13時過ぎでした。
まずは、交番にいた警察官(40代の男性)に概要を話します。
対応した警察官は熱心にメモを取り、「何か身分がわかるものはお持ちですか?」と尋ねてきました。
私は、身分証明書を提示しました。
氏名・会社名・住所を確認し、会社の電話番号も聞かれました。また、私の携帯電話の番号も聞かれました。
その間も別の警察官同士で話をしたり無線で応答したりしており、おそらく警察署とも連絡を取っていたものと思われます。
これは私の推測ですが、入居者が高齢ということもあり最悪の事態を考えて色々と手配していたのではないかと思います。
ご家族に連絡する(1)
たまたまですが、この部屋の入居者は近くに息子さんが住んでいます。
警察官にそのことを伝えると、できればご家族にも立会いしてほしいと言われました。
(安否確認の前に、ご家族か保証人に連絡しておくのがベターです。)
そこで、私はすぐに息子さんに電話をします。
2度目の連絡でつながり要点を話しましたが、「仕事中のため夕方にならないと来られない」とのご返事でした。
後ほど私の携帯に連絡していただくように伝えて電話を切り、警察官に伝えました。
すると、「すぐに現場確認をするので先に現地に行っていてください」と言われました。
思っていたよりも早い対応です。
この辺りの対応は、その交番の業務やその時の人員によって変わるかもしれません。
私はすぐにアパートへと向かいます。
(ちなみにアパートは駅から徒歩で行けるところにあります。)
警察の立会いで安否確認(鍵開け)する
アパートの前で待機していると、数分後にパトカーで警察官が到着しました。
交番の二人の警察官で一人は30代の男性、もう一人は20代の女性です。
そして、私と男性警察官がアパート室内の確認をするために部屋へと向かいます。(女性警察官はパトカーの付近に残りました。)
部屋のドアの前に立ち、チャイムを鳴らしてドアもノックします。
応答がなかったので、合鍵で開錠しドアを開けようとしました。
しかし、ドアは開きません。
もう一度鍵を回すと今度はドアが開きました。
どうやら鍵は初めから開いていたようでした。
室内に入る(安否確認)
私は、いきなりドアを全開にすることは怖くてできません。
なぜなら、もしかしたら中で亡くなっているかもしれないからです。
そのため、ドアをほんの少しだけ開けて鍵が開錠されていることを確かめた後、すぐにドアを閉めました。
男性警察官に開錠したことを告げ、ドアを開けて中を確認するのは警察官に任せることにします。
すると、男性警察官はすぐにドアを開けて室内を確認しました。
私は室内を見ないようにするつもりで少しドアから離れようと思っていたのですが、間に合わずに玄関内を目にすることになってしまいました。
そこで私は目にしたくないものを見てしまいました。
まさに玄関先で入居者の男性が倒れていたのです。
私はすぐに目をそらしました。
「亡くなっていますね。」と男性の警察官が言ったので、私はすぐにドアの前から離れパトカーが駐車してあるところまで戻りました。
自分では思ったよりも取り乱さずに対応することができたと思います。
警察が現場検証を行う(アパートの室内外)
現場にいる男性警察官が女性警察官を呼び、二人の警察官で室内を確認しています。
男性警察官は無線や携帯で連絡をしています。
おそらく、警察署に報告をして今後の対応を話していたのだと思います。
男性警察官は携帯電話でご遺体の写真を撮ったりしています。
(私は少し離れたところにいましたし、アパートの廊下も狭いため私からは警察官の姿が少し見える程度でした。)
撮った写真を警察署に送っているようです。
かなり意外だったのが、撮影に使用していた携帯がいわゆる「ガラケー」だったことです。
警察官の2人は、しばらくして私のいるパトカーの所へ戻ってきました。
私は少し動揺していて詳しい時間は覚えていないのですが、このときの室内の確認はおそらく5分ほどだったのではないかと思います。
入居者が亡くなっていたということで、詳細はこのあと警察署の職員が来ておこなうようです。
警察官2人と私は、アパートのそばで警察署から職員が到着するのを待つことになりました。
ご家族に連絡する(2)
警察署の職員を待っている間に、私は少し冷静さを取り戻してきました。
ひとつ気になっていることがありました。
それは、入居者の男性のご家族(息子さん)に早急に知らせなくてはいけないということです。
そこで、交番から来ている男性警察官に聞いてみました。
すると「連絡してください」ということでしたので、その場で息子さんに電話をかけます。
すぐに電話が通じ事情を話しました。息子さんは絶句していました。
私は警察署に行って欲しいという内容のことをお話しようとするのですが、相手の気持ちを考えると緊張してしまってうまく伝えることができません。
見かねた警察官の男性が電話をかわって説明してくれました。
このときは私としてはとても助かりました。
鑑識官が到着し調査を始める
警察署からの職員が到着したのは、私たちが室内を確認してから約30分後でした。
私も少し落ち着いてきて、なんとか時計を見る余裕ができました。
トラックが到着しました。
乗っている職員は、男性3名・女性1名の計4名のようです。
トラックから2人の男性職員が降りてきて、1人は本格的なカメラで建物(アパート)の写真の撮影を始めます。
職員の方は独特の作業着を着ており、私はすぐに「鑑識官」だとわかりました。
よくテレビドラマの殺人現場などを見分・検証作業をしている、あの作業着です。
その後もう1人加わり、3人にて室内の確認に向かいました。
交番の男性警察官も時おり加わっていました。
時間にして40分ほどだったと思います。
警察がご遺体を搬送する
室内の確認・見分が終わり、ご遺体を運ぶ際の包装の準備をしているようです。
その後、鑑識官(男性)と交番の男性警察官が包まれたご遺体をトラックの荷台まで運びました。
わたしはアパートの近くのトラックが見える位置で待機していました。
パトカーの近くにいると、通行人からジロジロ見られるので目立たない場所に移動していたのです。
今回のことは、14時~15時くらいの比較的に人通りの少ない時間で幸いだったと思います。
人目につきにくい時間で、幸いアパートの他の住人にもほとんど会いませんでした。
鑑識官からの聴取を受ける
ご遺体がトラックに運び込まれた後もまだ終わりではありません。
私は不動産会社の(本日の)担当者として、鑑識官から話を聞かれます。
担当したのは20代と思われる女性鑑識官です。
マスクをしていたので細かい表情はわかりませんでしたが、ごく普通の公務員の女性という印象です。
メモを取りながら私の話を聴取していました。
- 私の会社名・住所など
- 私の仕事内容
- 今回の部屋の件の経緯(時系列)
私は、自分が実際に対応した事項や知っていることは全て話しました。
逆に、契約内容などの詳細事項については、会社に資料があるので連絡して担当者に聞いてほしいと回答しました。
少し緊張していたので正確には覚えていないのですが、聴取の時間はおそらく5~10分くらいだったと思います。
事件性がないからなのか、意外にあっさりと終了しました。
追加で何か聞きたいことがある場合は、私の携帯電話にも連絡がくるとのことです。
(追記:その後、警察から私の携帯電話に連絡はありませんでした。)
私への聴取が終わると、鑑識官の方々はトラックに乗り込み、警察署へと向かっていきました。
部屋の鍵を閉める(警察からの指示あり)
アパートの部屋は警察によって施錠されました。(室内に入居者の鍵があったためそれで施錠)
警察から「連絡があるまではそのままにしておいて欲しい」と言われました。
すぐに室内の清掃をする、というわけにはいかないようです。
この時点で、時刻はまもなく15時になるところでした。
「安否確認」をするにあたり、交番への相談から終了するまでに今回は「約2時間」かかりました。
案件によっては警察の調査が長引く可能性もありますので、時間には余裕を持っておいた方がよいでしょう。
部屋の特殊清掃を手配する(警察の許可が出てから)
今回は室内で入居者が亡くなっており、また玄関の鍵も開いていました。
これは私の推測ですが、警察は念のため事件の可能性も考慮しているのではないかと思います。
おそらくその可能性は低いと思いますが、警察が調べない限り絶対にないとは言い切れません。
部屋の清掃は、警察からの了承を得てからになります。
会社では、特殊清掃(死亡した部屋などの特別なクリーニング)の手配をすすめていたと思います。
その他の気が付いたこと(安否確認)
実際の安否確認について、ここまで時系列で記述してきました。
その他、まだ書いていないことや気が付いた点を記載しておきたいと思います。
警察署からの鑑識官の到着を待つ間、私はふと不安なことが頭をかすめたので交番の男性警察官に質問をしました。
それは、私がドアの開錠の際にドアノブに素手で触れてしまったことについてです。
男性警察官は「大丈夫です」と言いました。
万が一に事件の可能性があったときには、自分の指紋も採取されて照合されることになるのだと思います。
また、トラックで来た鑑識官のうち、実際に作業をしているのは3名でした。
ベテランと思われる1人は、トラックの中で待機していました。
これは私の推測ですが、事件の可能性が低かったからではないかと思います。
室内を確認した後にもし事件の疑いが出てきた場合は、このベテランの鑑識官が現場を指揮していたのではないかと思います。
その際は警察署から(テレビドラマのように)刑事も派遣されるのでしょう。
安否確認のあとの手続き
今回はアパートの室内で入居者が亡くなっていました。
安否確認の具体的な手順は、これまでに述べた通りです。
では今後、オーナーや管理会社は、どのような手続きをしていけばよいのでしょうか。
それについては別の記事にまとめていますので、参考にしてください。
事故物件の処理手順① 賃貸物件の入居者が亡くなった後(筆者の実体験)
事故物件の処理手順② 特殊清掃の見積書のとり方(サンプルあり)
まとめ(アパートの安否確認ポイント)
「安否確認」の現場に立ち会う際のポイントをまとめておきます。
実際の流れ
- 部屋の鍵を準備する
- 交番または警察署に相談する
- 警察官と現場へ向かう
- 警察官の立会いでドアを開錠し、室内を確認する
- 室内が無人だった際は、何にも触らずにドアを施錠して引き上げる
- 入居者宛ての手紙をポストに投函する
事前に準備すること
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※筆者は法律の専門家ではないため、文中の用語について、警察や司法が正式に使用する用語とは異なる場合があります。文中では一般の読者の方が理解しやすい表現をしています。
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